アンケートや調査で「全国の中学生1000人に聞きました」という結果を見たことがあるだろうか。日本には約300万人の中学生がいるのに、なぜたった1000人の回答で「全体の傾向」がわかるのだろう。
「一部を調べただけで全体がわかるなんて、本当に信用できるの?」「どうやって計算すればいいのかわからない」そんな疑問を持つのは当然である。
実は、標本調査には「一部から全体を推定する」ための明確な計算方法がある。この記事では、標本調査の結果から母集団の数量を推定する手順を、具体例とともに順を追って解説する。
そもそも「母集団の推定」とは?
標本調査では、調べたい集団全体のことを母集団、その中から選び出した一部を標本と呼ぶ。
母集団とは、調査の対象となる集団全体のことである。例えば「ある中学校の全生徒」「池にいる魚の全数」などが母集団にあたる。
標本とは、母集団から無作為に(偏りなくランダムに)選び出した一部のことである。
母集団の推定とは、標本で得られた割合や平均を、母集団全体にも当てはまると考えて、全体の数量を計算することである。
具体的には、次のような場面で使う。
- 池の魚を100匹捕まえたら、そのうち15匹に印がついていた。印をつけた魚は全部で50匹。では池全体には何匹いる?
- 工場で作った製品から200個を抜き取って検査したら、不良品が6個あった。製品全体が10000個なら、不良品は何個くらいある?
推定の基本公式
母集団の推定には、次の考え方が基本となる。
言い換えると、標本で見つかった「特定の条件を満たすものの割合」は、母集団全体でもほぼ同じであると考える。
この考え方を式にすると、次のようになる。
これを比例式として解くことで、知りたい数量を求められる。
推定のしくみを図で理解する
標本と母集団の関係を視覚的に確認しよう。下のアニメーションでは、母集団から標本を抽出し、その割合で全体を推定する流れを示している。
図のポイントは次の通りである。
- 母集団全体を調べることはできないので、一部(標本)だけを調べる
- 標本での赤い点の割合(20%)を計算する
- この割合が母集団全体でも同じだと考えて、全体の数を推定する
推定の手順
母集団の数量を推定する手順を、具体的に見ていこう。
問題文から情報を整理する
標本の大きさ(何個調べたか)と、条件を満たした数を確認する。また、母集団の大きさ(全体の数)も確認する。
標本での割合を求める
標本で条件を満たす数 ÷ 標本の大きさ を計算する。分数のままでも、小数に直してもよい。
比例式を立てて、母集団の数量を求める
「標本での割合 = 母集団での割合」という関係を使って、求めたい数を $x$ とおき、方程式を解く。
例題1:不良品の数を推定する
次の問題を解いてみよう。
解き方
情報を整理する
- 母集団の大きさ:8000個(製品全体)
- 標本の大きさ:200個(検査した数)
- 標本で見つかった不良品:6個
- 求めたいもの:母集団全体の不良品の数
標本での不良品の割合を求める
200個中6個なので、割合は $\dfrac{6}{200}$ である。約分すると $\dfrac{3}{100}$ となる。
比例式を立てて解く
母集団全体の不良品の数を $x$ 個とすると、「標本での割合 = 母集団での割合」より、
この比例式を解く。内項の積 = 外項の積 を使うと、
答え:およそ240個
「およそ」と書くのは、推定値は正確な数ではなく、標本から予測した概算だからである。
例題2:捕獲再捕獲法(標識調査)
野生動物の数を推定するときによく使われる方法を見てみよう。
解き方
この問題は「捕獲再捕獲法」と呼ばれる方法である。考え方は同じで、「標本での割合 = 母集団での割合」を使う。
情報を整理する
- 印をつけた魚の数:50匹(これが「母集団で条件を満たす数」にあたる)
- 2回目に捕まえた魚の数:80匹(標本の大きさ)
- 2回目に捕まえた魚のうち、印がついていた数:4匹(標本で条件を満たす数)
- 求めたいもの:池全体の魚の数(母集団の大きさ)
比例式を立てる
池全体の魚の数を $x$ 匹とすると、
数値を代入すると、
比例式を解く
答え:およそ1000匹
捕獲再捕獲法のしくみを図で理解する
この方法がなぜ成り立つのか、アニメーションで確認しよう。
捕獲再捕獲法のポイントは次の通りである。
- 印をつけた魚が池全体に均等に散らばることを前提としている
- 2回目に捕まえた魚での「印つきの割合」は、池全体での「印つきの割合」と等しいと考える
- 印をつけた魚の数(50匹)がわかっているので、割合から逆算して全体の数を求められる
よくある間違いと対策
標本調査の推定問題では、次のような間違いが起きやすい。
比例式の分数を逆にしてしまう
「標本で条件を満たす数 / 標本の大きさ」と「母集団で条件を満たす数 / 母集団の大きさ」の対応を間違えないこと。分子どうし、分母どうしが同じ種類の数になっているか確認しよう。
捕獲再捕獲法で、どの数がどこに入るか混乱する
「印をつけた魚の数」は母集団側に入る。「2回目に捕まえた数」が標本の大きさ、「そのうち印がついていた数」が標本で条件を満たす数である。
「およそ」を書き忘れる
推定値は標本から予測した値なので、正確な数ではない。答えには「およそ」や「約」をつけること。
この単元のよくある質問
Q. 標本を大きくすれば推定は正確になるの?
A. 一般的に、標本を大きくするほど推定の精度は高くなる。ただし、標本の取り方が偏っていると(無作為でないと)、いくら数を増やしても正確にはならない。無作為抽出が大前提である。
Q. 捕獲再捕獲法は実際にどんな場面で使われているの?
A. 野生動物の生息数調査でよく使われている。例えば、クマやシカの頭数調査、絶滅危惧種の個体数推定、魚の資源量調査などで実際に活用されている方法である。
Q. 推定した値と実際の値はどれくらいずれる可能性があるの?
A. 標本の大きさや、母集団の性質によって異なる。中学数学では「ずれの範囲」までは扱わないが、高校以降で「信頼区間」という概念を学ぶ。今は「推定値は目安であり、正確な値ではない」と理解しておけばよい。
練習問題
まとめ
この記事では、標本調査の結果から母集団の数量を推定する方法を学んだ。ポイントは以下の通りである。
- 「標本での割合 = 母集団での割合」という関係を使う
- 比例式を立てて、求めたい数を $x$ として解く
- 捕獲再捕獲法では、印をつけた数が「母集団で条件を満たす数」にあたる
- 推定値は正確な数ではないため、答えには「およそ」をつける
標本調査は、全数調査ができない場面で非常に役立つ方法である。手順を覚えて、確実に解けるようになろう。
Core-dorill— 基礎を、何度でも。

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